不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

帝都衛星軌道/島田荘司

帝都衛星軌道

帝都衛星軌道

 息子が誘拐され、犯人は廉価な身代金を母親に運ばせる。犯人はトランシーヴァーを使って連絡をとるものとし、彼女に山手線に乗れと指示するのだった……。
 「帝都衛星軌道」の間に「ジャングルの虫たち」が挟まれる構成をとる。基本的なアイデアは気宇壮大なものではないが、今回は社会派の方の島田荘司で、都市論、冤罪、弱者擁護といった持ち味を、物語として有機的に紡ぎ上げている。大ネタは炸裂しないので、奇想系本格ファンには物足りなく感じるかも知れない*1。しかし、「帝都衛星軌道」における謎と、燻り出される男女のドラマ、「ジャングルの虫たち」における《生き馬の目を抜く》東京という大都市、その底辺でうごめく小物たちの虚しさは、やはり捨てがたい魅力を放つのである。
 もちろん彼にとっての最高傑作ではないだろうが、これは確かに復活してきたと思わせられる内容だった。シリーズ外の島田ファンにはお薦めである。

*1:あくまで島田荘司としては、だが。