不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

敵は海賊・不敵な休暇/神林長平

敵は海賊・不敵な休暇 (ハヤカワ文庫JA)

敵は海賊・不敵な休暇 (ハヤカワ文庫JA)

 ラテルとアプロを代理に任命し、海賊課チーフのバスターは久方ぶりの長期休暇をとる。火星随一の保養所で、これまた久しぶりに会う娘と一緒にロッジに泊まるのだ! 一方、海賊課の秘密捜査官であるアセルテジオは、ヨウメイを追い詰めるべく、《誰かの願望の物語を実現させる》というトンデモ超能力を駆使し始める。そしてもちろん、これは海賊課の面々とヨウメイ一味を巻き込んでの大騒動に発展する……!
 アセルテジオの設定だけで作者の圧勝。しかも、アプロの奇怪さが更に強調されるわ、アプロとヨウメイの一騎打ちは10ページ!だわ、いつもは目立たないチーフが頑張っちゃうわ、ヨウメイはカッコイイわで、もう最高ですよ。ラジェンドラも相変わらずいい味を出し、雰囲気に貢献。これらの濃い面子に囲まれ、ラテルはやっぱり分が悪いけれど、物凄くもなく組織を支えているわけでもない《もっとも普通》な彼の存在意義は、実は小さくないのだと気付いた。おふざけにも真面目モードにも対応でき、しかもトンデモ能力を隠し持たないラテルが主役を張ることで、物語のバランスがとても良くなっているのだ。
 まあそんなことはどうでもいい。読んでいるだけでも滅法楽しいし、SF的な考察も(流石はこの作者)しっかり為されているので、強くお薦めしたい一冊です。