不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

敵は海賊・A級の敵/神林長平

敵は海賊・A級の敵 (ハヤカワ文庫JA)

敵は海賊・A級の敵 (ハヤカワ文庫JA)

 宇宙キャラバンの一つ、マグファイア・キャラバンが破壊される。司令船をはじめとした数百もの動力付コンテナを破壊し尽くすのは並大抵のことではなく、おまけにこのキャラバンの正体は硬派の海賊であった。故に簡単にやられるはずがなく、だからこそ事件の裏にはとんでもない謎が隠されているに違いない。海賊課刑事のラテル・アプロ・ラジェンドラはそう考えた。同じく海賊課刑事のセレスタンもそう考えた。そして、伝説の宇宙海賊ヨウメイもそう考えた。かくて、海賊課と海賊入り乱れての調査が始まるのだが……。
 今回はラテルがあまり活躍しない。代わりに、新キャラであるセレスタンが大いに読者を楽しませてくれる。彼は、ベイビーピンクに塗りたくった、目立ってしょうがないパワースーツ《エクサス》に身を包み、アプロの次に食い意地が張ってちょっとお間抜けな、極めて個性的な海賊課刑事として描かれる。アプロも大活躍、ラジェンドラやヨウメイ、そしてカーリー・ドゥルガーといったレギュラー陣も、随所で実にいい味を出す。そして彼らに対峙する、《A級の敵》も素晴らしく豪壮である。
 形而上的なものを積極的に、しかし適度な平易さをもって取り込む《敵は海賊》シリーズ、今回もまた絶好調であった。笑劇要素を決して忘れないのもいとをかし。安心しておすすめしたい。