不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

あなたに不利な証拠として/ローリー・リン・ドラモンド

 警察機構で生きる女性警官たちに材をとった短編集。淡々と端正に綴られてゆく彼女たちの物語は、深く心に残るものを秘めている。筆致も磨き抜かれており、さすが12年に渡ってじっくり書かれた作品群であると感じ入った。
 とても読みやすいが、派手ではなく、ミステリ的な仕掛けにも乏しい。汗臭いアクションもなく、展開は淡白でさえある。ゆえに、エンターテインメントや思弁を小説に求めたい読者には、合わない場合だってあるだろう。しかしそうではない読者にとっては、極上の逸品となるのだ。嬉しいことに、私にとっても逸品となってくれた。そう、私はこの小説が好きだ。それだけで良いと思う。豪快に各所で薦めまくる、そういった宣伝は、この作品集にはあまり似つかわしくない。願わくば口コミでじわじわ支持が広がって行って欲しかった、そんな一冊である。
 ……ただ、唯一不満だったのは、作品集の最後の方の話が、いかにも犯罪小説*1然とした話になっている点。最初から最後まで、女性警官の《警官としての日常・生き様》に焦点を当てていれば、この作品集はより輝いたかも知れない。一番素晴らしかったのは、その《日常・生き様》の描写だったからだ。

*1:ここで言う「犯罪小説」とは、ミステリという巨大ジャンルも包含するだだっ広い範囲を指し示すものとして解されたい。