不壊の槍は折られましたが、何か?

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清佑せいゆう、ただいま在庄/岩井三四二みよじ

清佑、ただいま在庄

清佑、ただいま在庄

 室町後期(少なくとも応仁の乱後)、京の大寺が所有する荘園《逆巻庄さかまきのしょう》に、新代官としてその寺の僧侶・清佑が赴任してくる。庄内では大小様々な出来事が起きる。盗難事件、村娘の婚礼話、公事(裁判)、旱魃に大雨、そして台頭する周辺の地頭(武士)……。
 村人と若い代官を中心として、この時代の村人の生活を描く連作短編集である。結構ミステリ仕立て*1で楽しく読んだ。キレの良いオチはもちろん、ちょっと緩いが密室やトリックも出て来るという華やかさ。小説として見ても、内容がヴァラエティーに富んでいるのは嬉しい。裁判もあれば語り主体で済ますものもある。合戦やばくち、雨乞いなどもあり、登場人物描写も簡素ながらなかなか魅力的だ。逆巻庄が鮮やかに見えて来る錯覚にすら陥る、大変素晴らしい作品集である。
 所収13編中、書き下ろし3編が全くの非ミステリであったりするし、帯にもミステリのミの字もない。恐らく作者は本書をミステリとしては読んで欲しくないのだろう。しかしミステリ読者にも、歴史小説への架け橋としての含意も持たせつつ、おすすめしたい一冊だ。

*1:本格ミステリよりも、異色作家短編集などでも奇妙な味付けではない洒落た短編を思い浮かべてください。ミステリ色といっても、あんな感じです。