不壊の槍は折られましたが、何か?

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メルニボネの皇子/マイクル・ムアコック

メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

 落日のメルニボネ帝国の若き皇帝、エルリック。彼が混沌の神アリオッホと契約し、魔剣ストームブリンガーを得た経緯、そして帝国からの旅立ちを描く。
 物語としては明らかにプロローグに過ぎないのだが、読んでいるだけで楽しいのはどうしたことか。ストーリーテリングも素晴らしいのだが、物語に暗い影をもたらす手並みも、軽過ぎず重過ぎずの絶妙ぶりで、この後の展開に気を持たせる。隅々のキャラまで造形が冴え渡っている。そして、そんな奴らの中でさえ、エルリックが主役として重きを為している。作者に相当の力量がないと、主役は埋没したり突出してしまうが、そんな心配は無用。
 加えて、剣戟シーンと召還シーンが非常に鮮やかで、この物語が剣と魔法のファンタジーであることを、質を伴って示すのだった。本当に素晴らしい。やはりジャンルを越境するのは楽しいなあ……。