不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

怪奇探偵小説名作選4 佐藤春夫集 夢を築く人々/佐藤春夫

 とにかく鷹揚な作品ぞろい。
 語り手が事件の当事者であることが少なく、聞き手として間接的に出来事を知ることが多いように思う。また、たとえ当事者であったとしても、どこか熱が入っていないというか、冷静さや白けとはまた違った、一種の距離感・余裕あるスタンスをとっていることが多いのではないか。これを指して私は「鷹揚」と表現したい。
 しかしそれ以上に「鷹揚」で、私にとっては致命的であったのが、文章もまた鷹揚であるということだった。切迫感も熱も、また文章それ自体の美しさのために厳しく磨き抜くでも、饒舌を貪るでもなく、単にダラダラダラダラしているだけ。私にはそのように思われてならなかった。
 恐らく、ファンにとってはこの鷹揚な挙措こそが魅力なのではないかと思う。これは確かに特徴と認めうるからだ。しかし私には全く合わなかった。非常に申し訳なく、また残念に思う。
 唯一、珍妙な遠未来を描いた「のんしゃらん記録」のみ、普通に楽しめた。