不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

薔薇の復讐/マイクル・ムアコック

暁の女王マイシェラ―永遠の戦士エルリック〈3〉 (ハヤカワ文庫SF)

暁の女王マイシェラ―永遠の戦士エルリック〈3〉 (ハヤカワ文庫SF)

 エルリックは、父帝セドリック86世の亡霊に命ぜられ、父親の魂探しに狂奔することになる……。
 多元宇宙を巡る設定が極めて明瞭に打ち出されると共に、筆は益々豊穣になってゆく。ムアコックがこれを書いた年代から考えれば、恐らくエルリック自身の物語が彼の死をもって終了した後、外伝として続々と著された作品群に含まれている作品だと思う。そのためか、エルリックは《主人公》《悲劇的な英雄》、ストームブリンガーは《魔剣》という記号として扱われているように思われた。しかしだからこそ、題名どおり《薔薇の復讐》というドラマ、《法》と《混沌》の戦いの有様が直接華麗に打ち出され、サーガの一編としてではなく、一作の長編として楽しく読むことも可能となっているのだ。
 というわけで、正直このサーガにちょっと倦み始めた私に渇を入れてくれる作品となった。たいへんありがたい。次刊も読もうと思います。