不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

スクレイリングの樹/マイクル・ムアコック

スクレイリングの樹―永遠の戦士エルリック〈6〉 (ハヤカワ文庫SF)

スクレイリングの樹―永遠の戦士エルリック〈6〉 (ハヤカワ文庫SF)

 世界大戦後、東ドイツに組み入れられた所領を捨て、ウルリックとウーナは結婚し、ロンドンに移り住んだ。そして1951年。アメリカを訪れていた夫婦は、謎の男たちに襲われ、ウルリックは連れ去られてしまう。夢盗人の娘であるウーナは、この次元では久しく使っていなかった魔法を使って、夫の後を追うが……。
 世界樹のイメージが鮮烈な、新エルリック・サーガ第2弾。ムアコックは旧シリーズにおける叙事詩的なスタンスを半ば放棄し、登場人物の内面に焦点を当てる。ウーナ、エルリック、ウルリックの目を通して描かれる、平行世界の様々な情景、法と混沌の戦い、そして宿命。彼らがそれぞれの立場から思い感じたことが、このファンタジー世界の魅力を伝えてやまない。前作『夢盗人の娘』のような驚愕のご無体場面はないが、その分安心してじっくり読める。今回も実に素晴らしい出来栄えといえよう。完結編となる次作が今から楽しみである。