不壊の槍は折られましたが、何か?

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怪奇探偵小説傑作選4 城昌幸集 みすてりい/城昌幸

 星新一は極めてスタイリッシュな文体でショートショートの数々をものした。可能な限り、時代性を排し、人間ドラマ性を排し*1、要するに《必須ではない》ものを削ぎ落とした。ショートショートの巨人たる星新一がこのような行動に走ったからか、以後、ショートショートというのは《精髄》のみを記述し、その他はできるだけ割愛する、というのが作風の主流となっていたような気がする。
 しかし、ショートショートの先駆者たる城昌幸は、異なる手法を取っている。読んで「ああこれはここら辺の時代を舞台にしているな」とわかる道具や言葉遣いはたくさん出て来る。内面描写にも積極的に踏み込む。変な事件・出来事こそがショートショートの王道、というスタンスはもちろん共通だが、星新一以降ほどには強固ではない。情緒的・感覚的な面にのみ光を当てる作品も少なくない。
 ではつまらないのか。悪い意味で古びているのか。私はそんなことはないと思う。これはこれで非常に素晴らしい仕事であり、(いかにショートショートといえども)究める道は一つではない、という当たり前のことを痛感するだけなのである。個人的には、年老いた男を良心が訪ねて来る「良心」が一番好きかな。

*1:人間を描くのには、内面を描写する必要はなく、事件を描くだけでよい、というのは星新一の原則的な立場であった。