不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

摩天楼の怪人/島田荘司

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

 マンハッタンのセントラルパーク・タワー(38階建て)の一室にて、往年の女優ジョディ・サリナスは死に掛けていた。しかし彼女はその間際、一つの謎を投げ掛けて旅立った。50年近く前、彼女は人を殺したというのだ。それも、自分でも未だに可能だったとは思えない方法で。そしてジョディのために、《ファントム》なる謎の人物が暗躍していたらしい。ミタライ助教授は、遺されたこの謎に挑む。
 お馬鹿な奇想がなかなか良い感じで炸裂する。摩天楼の高層ビルに巣食う怪人が色々やってくれるのは楽しい。そして、セントラルパークや摩天楼の、ちょっとしたガイドとしても味わい深い作品。反面、謎の派手さやドラマ面・主義主張面では、筆致が往年に比べ抑え気味*1である。自覚云々以前に単純な加齢現象と思われるが、本作に限ってはプラスの効果を生んでいて好印象。
 というわけで、大傑作というほどではないが、じゅうぶんに楽しめる作品であろう。パラパラめくると、ネタが一撃でわかってしまうので、くれぐれもご注意を。
 以下、未読の人は読まないでください。念のため反転もおこないましたが。
 話の舞台が1969年って一体どういうことですか?『占星術』は1979年の事件だったはずで、その10年前に(いくら 自 由 なアメリカであっても)御手洗潔助教授ってのはあり得ないように思う。ミタライと御手洗潔って別人なのでしょうか? それとも、何か私すごい度忘れしてるんでしょうか。正直『アトポス』より後の島田荘司をほとんど読んでおらず、ここ暫く彼からは離れる一方だったので、よくわかりません。知りたければ全部読まねばならんのか……。

*1:島田荘司においては、という意味である。凡百の作家に比べると、やはり凄まじいことは間違いない。メイン・プロットには全く無関係である、ファンタスティックな挿話の存在とかは、微笑ましいほど「らしく」って良い。