不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ドグマ・マ=グロ/梶尾真治

ドグマ・マ=グロ (新潮文庫)

ドグマ・マ=グロ (新潮文庫)

 新人看護婦の由井美果は、私立病院である培尾総合病院(九州にある)に勤務してから初めての夜勤をおこなうことになった。運悪く、夜勤のパートナーは鬼婦長として名高い柚佳子である。……しかしそれにしても培尾総合病院は、異様に怪しい病院であったのだ。
 梶尾真治が描く、夢久+乱歩+ラヴクラフト! つーかもう滅茶苦茶。日本軍人の亡霊、意識不明の重態である極右団体塾長と彼を守る団員、「よぉ。よぉ。彼女ぉ」と美果に声を掛け無視されたのでレイプしてやると病院に忍び込むDQNな男二人組、戦時下に逃亡してからずっと培尾総合病院の屋根裏を這いずり回っている米国人、空いているベッドで彼氏と楽しもうと非番なのに出て来た美香の同僚看護婦(頭軽い)、果てはボケ老人たちが大活躍! そしてプロローグは《……ヴィイィ──ンンン──ンンン──》、敵するショロホフスク体はどう見ても《クトゥルー神話》なのだ!
 物語要素には、エグく、グロいものが多い。しかし妙に滑稽で軽妙なのは、先述の多彩な登場人物のやり取りが影響している。ボケ老人やDQNがいい味を出しているのが素晴らしい。登場人物のやり取りも妙にリリカルであったりして、面白い。そして結果的に醸し出されるのは、典型的なB級SFホラーの雰囲気である。しかし根底には、夢野久作江戸川乱歩などの怪奇探偵小説作家、そしてH・P・ラヴクラフトに対する敬意が流れている。もちろん、先行作品のことを何も知らなくても特に問題はなかろう。読んで楽しむ。それだけでいいじゃないか、という作品だ。