不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

逆まわりの世界/フィリップ・K・ディック

Wanderer2006-01-15

 1986年を境に、突如地球では時間逆流現象が生じた。飯は「もどす」し、死者は墓から甦り、生者は若返って子宮に帰ってゆく*1。そして《未来》の書物は《過去》に持って行けないからか、なぜか図書館に集められ裁断される*2のであった……。ここで墓から甦る人々をケアする場=再生施設の必要性が生じる。とある再生施設の経営者ヘルメスは、ユーディ教の教祖ピークが墓から甦ることを知り、先手を打って彼を掘り出す。しかしこれが仇となり、彼は若妻ロッタ、ロッタに横恋慕するティンベイン巡査と共に、ピークを巡るピーク教・図書館の争奪戦に巻き込まれてしまう。
 作品世界の設定に特に言葉を費やさず、ロッタに対するヘルメスとティンベインの愛と、ピークが醸す宗教的な雰囲気が作品の核心を成す。プロット等は特に破綻しておらず、比較的さくさく読める。正直特段の魅力は感じなかったものの、やはりというか相変わらずというか、閉塞感が印象的。ディック・ファンにはお薦め。
 そしてやはりドラッグは出て来るのだった。今回はLSDを散布して図書館に突入します。ディックにしては比較的非重要な部分で使用していると思った。

*1:ただし、母親の子宮でなくとも良い。何やら契約して云々らしいんだが、ずっと子宮に帰らなければどうなるのかは、不明。

*2:理由は明確には説明されない。