これまた粒よりの短編集。半数近くが既に他の単行本に収められているとはいえ、『一角獣・多角獣』の本来的価値そのものが低くなるわけではない。今回四巻目まで達した新装再版・異色作家短編集の中では、アベレージも含めもっとも素晴らしい一冊だと思う。訳が古くなったとの感想を持たれる向きもあるようだが、読みにくくは全くなく、むしろ古典美を湛えていて、これはこれで好ましいと思われるのであった。
個人的には冒頭の「一角獣の泉」が一番好きだった。最後の4ページがが凶悪なまでに美しく、
シシ神一角獣登場の厳かな情感がたまらない。……それにしても、「純潔な処女だけが一角獣をなつかせ、捕らえることができる」という伝説、どの程度の
知名度があるんですかね。これ知らないとわけがわからんのではないだろうか。そして、「その娘の美しさはたいそう抑えられていたから、表にはすこしもあらわれなかった」なんて、リアルで言うと殺されかねないと思ったことであるよ。