不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

子どもたちは夜と遊ぶ/辻村深月

子どもたちは夜と遊ぶ(上)

子どもたちは夜と遊ぶ(上)

子どもたちは夜と遊ぶ (下)

子どもたちは夜と遊ぶ (下)

 視点人物がどうあれ、三人称の地の文で《ちゃん》付けする時点で色々決定なわけだが、その気持ちを抑え付けて読む。性善説を採用し他者を承認しまくる登場人物たち(でも自己承認はせず、それが悲劇につながる。月並み)の、自分酔いな内面描写が、微温的な文章で延々と続く。殺人に関しても、方向性としては、人間が生きることの哀しさ・虚しさを柔らかいタッチで描く。作者本人は、繊細で温かい物語を、哀しみを込めて紡いでいるつもりなのだろう。しかしながら本当にそれしかやっていないため、余りにも一面的で歯応えがない。また文章等に無駄が多過ぎる。私がアイロニーニヒリズムに毒され過ぎているのかも知れんが、これ系の筆致を延々と700ページ以上も続けられると、いい加減うんざりしてくる。正直気色悪い。普通の作家だったら、日常シーンはもっとドライに書くんじゃないですかね。全編ウェットなんで不快指数高いよ。
 なお、ネタの一部はなかなか良い。しかしいずれにせよ一発ネタのため、上下に別れるような長大な物語には全く向かない。再読すればまた新たな感動が、というわけでもない。個人的には、《仕掛ける場所》もいかがなものかと思う。
 罵倒を避けて言えば、文章をもっと削るべきだったのではないか。印象がだいぶ変わるはずだ。変わったところで面白いかは敢えて書かない。以上。