不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

双面獣事件/二階堂黎人

双面獣事件 (講談社ノベルス)

双面獣事件 (講談社ノベルス)

 昭和45年、二階堂蘭子と黎人、そして中村警部は、希代の犯罪者《ラビリンス》を追うため九州に向かった。そして奄美方面の島で、奇怪な《双面獣》が引き起こしたとされる残虐な大事件が起きていることを知る。その陰に《ラビリンス》の存在を感じた蘭子たちは事件の舞台となった島に向かうが。
 空想B級ゲテモノ科学が炸裂する物語である。海野十三のようなノリで進む物語であり、我々読者もそれ相応のノリを求められよう。そしてその限りにおいては、なかなか楽しいストーリーラインを有している。本書に本格ミステリを期待するのはそもそも間違いであるはずだ。《真相》はあまりにも非合理的で、さすがにこれを実行する者は誰もいないと思われるが、ケレンたっぷりの作品で「計画が現実的ではない」と突っ込むのは野暮というものである。ただし、犯人や悪人サイドへの罵倒、蘭子への賛辞、恐怖感の扇情などの場面が問題で、冗長なうえに語彙も貧困なのはやはり厳しい。ここを大幅カットすればもう少し作品が締まったと思われる。本書に含まれる思想内容は変ではないが、文章が幼稚なのでかなり損をしていると思われた。二階堂黎人は字数を自ら制する節度を持っていい。