スロウハイツの神様/辻村深月
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/01/12
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人物描写を中心に、結構うまくなっており、私は彼女に対する評価を改めるに至った。ふわふわした筆致は以前読んだ時と同じだが、ドライ(偽装含む)かつシビアな視点も用意しており、登場人物同士も過度にはベタベタしない。ここぞという場面でこそ友のために大きく動くが、それはあくまでストーリーの要請するところであって、甘さは許容範囲内にとどまっている。そしてラストの伏線回収、これは見事である。総合的な評価としては、クリエイターの厳しさを描く一方、本当に人間に優しい小説といえるだろう。広くおすすめしたい。
さて、以下は完全にイチャモンである。心ある方は読まぬが吉であろう。
辻村深月は文化芸術の意義を「信じている」。作品には、文化芸術への信仰が濃厚に漂う。しかし現実は、文化芸術に対して世間一般はそれほど興味がないし、理解もない。我々は、文化芸術に、受け手の自殺等々を止め得る力があることを知っている。世間一般も、ここまでならばギリギリ理解している。だが、世間一般は、だからといって文化芸術に人間が耽溺することを許しはしない。文化芸術によって救われた命は、より「有用な」もののために使われねばならないのだ。文化芸術のような「無用な」ことに耽溺する人間は、世間様にとって、異形の怪物であり変態でしかあり得ないのである。
これを辻村は認識できていない。たとえば、たとえ作家を励ます目的であれ、手紙を一人で大量に送り付ける行為などは、歪んだ愛情の発露=気色悪い行為としてのみ捉えられるはずだ。ましてやその内容が、作品によって人生に希望が持てるようになった、ということを切々と訴えるものであれば、それはドン引きの対象にしかなり得ないのである。ましてや、大マスコミであるところの新聞社が、美談として継続的に取り上げるようなことには、絶対にならない。しかも《天使ちゃん》……。何と舌っ足らずなネーミングなのだろう!
このような無理筋のエピソードを、物語の重要な前提として何の疑いもなく採用するのは、作品のリアリティを不必要に弱めることになり、好ましくない。作品にとって致命的な瑕疵ではないと思うが、しかし、一部の読者に強い抵抗感を覚えさせることもまた確実である。こう言うと異様に偉そうだが、ご都合主義的な途中展開はともかく、辻村深月は、少なくとも物語スタート時点においては、現実をもっと厳しめに設定しなければならない。