不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

フィラデルフィア管弦楽団

  1. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調Op.58
  2. マーラー交響曲第5番嬰ハ短調

 ラン・ランのピアノは鋭く、そして美しかった。技術的に凄いのはデフォルトとして、この《演奏者が何もできない》曲において割と自由に遊んでおり、いたく感心。オケの伴奏は、重心が低く設定され、ラン・ランの演奏を下支える。とはいえエッシェンバッハらしく、終始高い緊張感が保たれており、基本的に深刻度が高い。これまた、この曲としては異例な感じで、なかなか贅沢にして希少な時間を過ごせた。
 後半のマーラーについて。エッシェンバッハは一点一画疎かにせず、楽曲の全ての瞬間に表現を盛り込もうとする。それも深刻に。ところがオケの音色は決して暗くない(柔らかくブレンドされてるし)。この二つのベクトルに聴き手は引き裂かれる。聴いていて非常に疲れる演奏であり、時折呆けていたことを告白するが、それらの《表現》が楽曲全体のことを考えてのことかについては正直微妙。まあ今日は曲が曲*1だから、これでも全然構わないんですけどね。それに、「おおっ!」という瞬間が何度もあったのだから、文句を付ける筋合いはそもそも皆無なのだ。指揮者とオケの相性は良くなさそうだが(凄く演奏しにくそうな棒!)、そういうコンビをたまに聴くのも悪くない。
 金管中心に、はっきりわかるミスが何個かあったのは残念。以上。

*1:マーラー交響曲の中でも、恐らく支離滅裂度はピカ一です。