不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

OUT/桐野夏生

OUT(アウト)

OUT(アウト)

 武蔵村山市のコンビニ弁当工場で働く、雅子、邦子、ヨシエ、弥生ら、それぞれ曰く付きの主婦たち。ある日、弥生が、ギャンブル浸りで暴力を振るう夫を殺害してしまい、雅子に助けを求めてくる。雅子はヨシエを巻き込んで、風呂場で弥生の夫を解体する。金の無心に来た邦子にも、バラバラ死体の処理を手伝わせる……。
 桐野夏生ほど《女であること》を赤裸々に描く作家も珍しい。代表作と目される『OUT』もまた、女性たちの情念が渦巻く非常にイヤな話になっている。家庭に問題を抱えつつも、一応暮らしている女たち。だが彼らは、さして親しくもないし仲間意識もないのに、弥生の殺人隠匿に助力し、死体をバラし、報酬を受け取り、その後は日陰者的行動をとる。何故そのような行動をとるのか、理由は明示されない。登場人物たちも、作者自身も明快には説明できないのかもしれない。だがしかし、この物語は圧倒的なリアリティーを持って読者に迫ってくる。登場人物の歪みが、恐らく誰もが程度の差こそあれ抱えるが、言葉にすると何かが変質してしまう、そういう心の闇の微妙な部分を、的確に捉えているからではないだろうか。
 文章も読みやすく、全体のペース配分もよく考えられている。国産ノワールの傑作として、広くお薦めできる作品である。