不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シュターツカペレ・ドレスデン

  1. モーツァルト交響曲第41番《ジュピター》
  2. R.シュトラウス交響詩英雄の生涯

指揮はベルナルト・ハイティンク

 前半のモーツァルトが本当に素晴らしかった。私は従来、ハイティンクを折り目正しい指揮者と感じており、パースペクティブを聴衆にもしっかりわからせる点に秀でていると評価していた。当日もその線に沿ってはいたのだが、《ジュピター》では意外なほどメロディーを大切にしていて、全編に豊穣な歌心を感じさせた。曲がモーツァルトにあっては異例なほど構築的な《ジュピター》であるだけに、これは異例であると認識したものである。オーケストラの音色も評判どおり素晴らしかった。特に第二楽章はあらゆる意味で絶品。神。もう少しで泣くところでした。間違いなく一生耳に残ると思う。

 ただ、後半については、座った席の関係かもしれないが、ちょっと画然とし過ぎていたような感想を抱く。音楽は前に進もうとしているのに、オケも指揮者も手綱を引き締めてしまう。音には大層な熱気があるものの、解放感がないというか、上から押さえつけられているというか、ちょっとフラストレーションが……。遅めのテンポもこの印象を強化。とはいえオケの鳴りが凄く良いためド迫力、しかし決して逸脱しない辺りが、この指揮者らしく、かつこのオケのイメージにも沿う。最後の《英雄の引退と完成》もさすがにじっくり聴かせたし、何だかんだ言いつつ楽しみはした。
 なお《英雄の生涯》において、間髪入れず拍手を始めた聴衆にはガックリ。拍手が始まった途端、明らかに余韻を持たせようという振り終え方だったにもかかわらず、パッと指揮棒を降ろして、やにわにコンマスと握手&聴衆にお辞儀をし始めたハイティンクは本当にいい人だ。しかし曲が曲だけに、そこは切れていい、いや、切れるべきところである。馬鹿を付け上がらせるだけに終わる類の、演奏者の愛想のよさは問題かもしれない。奴らきっとまたやるぜ。

 アンコールは、ワーグナーニュルンベルクのマイスタージンガー》第一幕前奏曲で、これがまた凄かった。大爆発。にも拘らず崩れないフォルム&サウンド! アンコールということで力押し気味だったのが残念といえば残念だが、ここまでされては文句を言う方が間違いであろう。

 つーことで堪能。来週も楽しみです。