不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

犬は勘定に入れません/C・ウィリス

 基本的には、『ドゥームズデイ・ブック』『航路』の時に抱いた感想とほとんど変わらない。無駄が多過ぎる。前半(ていうか後半にも相当めり込む)における物語の停滞は、怒涛のラストへの溜めとしては理解できる……が、納得はできない。シチュエーションコメディを大長編でやられても、少なくとも私はひく。今回は序盤、主人公が状況をよく把握しないまま過去に送られるのだが、彼が落ち着くまで例によってえらくページを食う。その間、私は読者が放置されているように感じた。

 とはいえ、やはりうまい。これは認めざるを得ない。文章そのものは読みやすいし、悲劇味が薄いため、コメディ性が物語のバランスを破壊することもない。話がいったん動き始めると、あざといほど盛り上がる。ウィリスは前段で述べたように気に食わないが、それでも買って読んでしまい、しかも楽しめてしまう。凄い実力者なんだと思います。広くお薦めできる作品である。