不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

光の塔/今日泊亜蘭

光の塔 (ハヤカワ文庫 JA 72)

光の塔 (ハヤカワ文庫 JA 72)

 日本SF黎明期の傑作。

 作者は1912年生まれであり、その点を斟酌する必要はあるだろう。しかし気になるものは気になるわけで、右翼がかった部分が多いのはいかがなものか。日本を賛美するのは良いとしても、返す刀で西洋文明をこきおろすのは感心しない。白人は精神修養が足りんと言わんばかりの言説を垂れ流すのは、今日泊亜蘭がいかに大正生まれであったところで首肯しがたく、ぶっちゃけ気分が悪い。やっぱ私は、自国の文化・文明こそ世界最高なんだとする類のナショナリズムが嫌いみたいです。
 とはいえ物語の根幹には科学精神(←若干の皮肉を込めて)があり、また上述の右翼がかりも、今となっては貴重なテイストであり、小説としてはむしろ楽しめる。現代文明への警鐘というありがちなテーマも、硬直化した視座と力み返った語り口ゆえに、かえって読者の胸を打つ。アジテーションとしては成功しており、必死だなプ、という娯楽性を持っているのが素晴らしい。お薦めである。

 致命的なのはあとがきである。95年に書かれた文庫重版のあとがきで、作者は加齢により更に硬直度を増した世界認識を披瀝する。95年にSFを語るのに、未だウェルズを持ち出す、その不勉強ぶり! ソ連の崩壊を予期していなかったとの突っ込みに食って掛かる大人げのなさ! とはいえ主張に芯は通っており、矜持を保つ頑固一徹の老人の姿がここにある。ここは一つ、斜に構えて楽しむべきだろう。