不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ストーカー/A&B・ストルガツキー

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

 異星の超文明は、地球の数箇所に来訪したものの、人類と全く接触せず去って行った。しかし彼らが飛来した土地は、彼らが去った後も、様々な物体と不思議な現象に溢れた異常な領域となる。人類はそれを“ゾーン”と呼んで、一般人の立ち入りが禁止されることになった。だが“ゾーン”に不法侵入し、さまざまな物品を持ち出す人々が暗躍するようになる。彼らはいつしか《ストーカー》と呼ばれるようになった……。
 本書は、ストーカーたちを描く物語である。中心になるのはレドリック・シュハルトで、腕のいいストーカーなのだが、結局彼らはアウトローであるため、どうもニヒリズムに沈みがちなのだ。異星の来訪(過去)の素っ気なさと、“ゾーン”の不可解さと危険性(現在)がそれに拍車をかけている。本書において、異星文明の謎は何一つ解き明かされない。“ゾーン”における血湧き肉踊る冒険もない。ここにはただただ、懸命に生きる人々の、閉塞した灰色の心象風景が広がっている。「泣ける悲劇」といった甘い餌も一切ない。全体的に暗いし、300ページもない分量にしては重い、苦くて渋い人間模様が待ち受けている。そしてそれは、極めてリアルな質感に富んでいるのである。読み応えたっぷりの、正統派文学寄りのSF小説としておすすめしておきたい。