不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

都市/クリフォード・D・シマック

都市 (ハヤカワ文庫 SF 205)

都市 (ハヤカワ文庫 SF 205)

 機械文明の発展により、人類は都市を放棄し郊外に点在する館に移り住むようになり、やがて宇宙へ、そして更には別の世界へと旅立つことになった。そして幾世紀も後、地球を支配しているのは、知性化された犬族であった。彼らのほとんどは、《人類》を伝説上の存在とみなし、遠い過去の文献を集めて伝説の再構成を試みる……。
 半世紀以上前の作品であり、さすがに様々な要素が古くなっている。しかし、アンティークにはアンティークの魅力があり、この「古い」雰囲気そのものをまずは楽しむべきであろう。また、SFは、古びたとき、実に上質な寓話に転化する可能性を秘めている。人間そのものはいつの世でも変わらない以上、文化文明への批評精神に富んだ作品であればあるほど、それは普遍性を帯びるのである。シマックの『都市』もまた、そのような名品である。
 『都市』に含まれる8編は、人類の未来を描いたSFではあるが、むしろ人間に関する高踏的な寓話と解されるべきだ。幕間で言及される犬たちの学説上の争いは、人類文明を外から眺める興味深い試みとも読めるはずだ*1。落ち着いて物語の各要素を整理してゆく作者の手綱は確かなものであり、実に興味深く、面白い。そして、最後の最後で娯楽小説ではないもっと普遍的な何かに到達しているのだ。『山椒魚戦争』が生きているのであれば、『都市』もまた復活を遂げてよいだろう。是非復刊を。

*1:もっとも、犬たちは「人間は理解不能。人間とは何かのメタファーに違いない」としか言っていないのだが。