不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

香水/P・ジュースキント

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)

 知り合いのホームページで、「このページを見る全ての人にお薦め」とか書かれていたので、読んでみた。……相変わらず動機が不純な俺。

 これは素晴らしい小説である。
 鋭敏な鼻を持つがゆえ、匂いがその全てとなった一人の男の、奇想天外な物語。現実とは遊離した感覚や感受性、そして世界観・人生観を持つ主人公は、だからこそ実に面白く読める。あれだ。ミステリ畑だと、こういう異常感覚って(当人にとっても)悲劇的な様相を帯びる。『カニスの血を嗣ぐ』とか『オルファクトグラム』とかに代表されるように。そういう貧しい読書経験に比し、単に異常であるだけで悲劇では恐らくないこの綺譚は、けっこうなインパクトを持って私の中で屹立してしまったのである。

 というわけで、傑作だと思われる作品。何気にドイツの作家だという点も、なかなかに興味深い。