銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ/大原まり子
銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ (ハヤカワ文庫 JA 185)
- 作者: 大原まり子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/04
- メディア: 文庫
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やはり一番印象的なのは表題作。この作品が喚起する、宙を飛び、歌うクジラのイメージはとても美しい。またそのクジラと出会う少年と少女の物語も、特段ドラマティックではないしむしろ月並みとさえ言えるが、クジラと組み合わせることで実に馥郁たる余韻が漂う。続いては「有楽町のカフェーで」と「薄幸の町で」の連作が素晴らしい。SF作家の青年と、ある若い女性の交流が描かれる。「有楽町のカフェーで」は、単にそのSF作家が喫茶店で延々と待ちぼうけを食らわせられているのを描くだけなのだが、これがなかなか面白い。だがしかしこの段階では全くSFではない。ところが「薄幸の町で」に至るや、途端にSFになり、物語は悲劇的色彩を帯びるのである。亡き娘に変身した砂羊と暮らす男の物語「愛しのレジナ」、地球人と異星人が普通に暮らす町だが実は……という「高橋家、翔ぶ」も、不思議な質感を湛えていてとても面白かった。
以上5編はいずれも、結局は《愛》を描いた作品といえる。SF的色調を帯びつつも、個人的な物語に還元されるテーマ設定は、話のスケールを小さくする一方、読んでいて心地よい。作家が被造物を慈しむ視線が感じられ、それもまた微笑ましい。私は好き。
問題は「地球の森の精」。これは他の5編とは明確に異なり、《愛》云々はほとんど出て来ず、オチに向かって進行するタイプの作品である。単なる好みの問題だが、このネタがあまり好きではない。霊とか言われた瞬間に、生理的に引いてしまうのは私の悪い癖である。大変申し訳ない。
いずれにせよ、短編集としては非常によくまとまっている。先述のように比較的シンプルなので、大原まり子入門には向いているかも知れない。