不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

かめくん/北野勇作

かめくん (徳間デュアル文庫)

かめくん (徳間デュアル文庫)

 木星における戦争に投入されているはずのロボット?サイボーグ?人工生命体?の《かめくん》が、地球の普通の町で、普通に生活する物語……少なくとも最初のうちは。
 見事なまでに美しい寓話的・幻想的なSFである。そしてそれが、市井の風景とまた不思議と嵌っているのだ。猫の肉球。リンゴ。乾き物。図書館。色々な日常の一こま一こまが見事に活写される。それも温かく、ソフトに。日常全体もそのトーンで最初から最後まで一貫し、悲劇的に暗転・崩壊するなどというわかりやすい展開も辿らない。
 しかし、戦争はやって来る。影さえ帯びず、ひそやかに。でも切なく。
 傑作であると思う。お薦め……だが流石にもう皆読んでるだろうなあ、これ。