不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

グッドラック/神林長平

グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)

グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)

 一応断っておくが、これは『戦闘妖精・雪風』の続編である。

 作者自身が言及するように、これは自己の代表作の「背景」をもっ知りたい、書きたいという欲求を創作の動機とする。なるほど世界設定は詳しくなっていて、この小説で想定された地球社会とFAF社会はどんな世界なのか、施設や装備、或いはどのようなコンピューター群が戦争を支えているのか、そしてJAMの正体とは何か、物語とその世界の拠って立つ部分がより鮮明になっている。しかしより重要なのは、この小説が『戦闘妖精・雪風』のテーマを更に深化させている点だろう。あそこで重層的に描かれた、「人間とは何か?」「機械とは何か?」「意思疎通とは何か?」との問いは、さらに筆を割かれて追求され、そのためにカウンセラーまで登場する念の入れようである。レムとは違い、神林の問いは直球勝負であり、人間や地球産の機械がJAMと相容れないのが仄めかされつつ、それでもなお真面目な考察や意思疎通の試みが繰り返され、それが人「と」人にフィードバックされる様は凄い。長くなっているのは専らこのためであり、読み応えは充分。

 この夏初めて出会えた、「素晴らしい」と何のためらいもなく口に出せる作品である。
※読了は八月中です。