グッドラック/神林長平
- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/12/01
- メディア: 文庫
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作者自身が言及するように、これは自己の代表作の「背景」をもっ知りたい、書きたいという欲求を創作の動機とする。なるほど世界設定は詳しくなっていて、この小説で想定された地球社会とFAF社会はどんな世界なのか、施設や装備、或いはどのようなコンピューター群が戦争を支えているのか、そしてJAMの正体とは何か、物語とその世界の拠って立つ部分がより鮮明になっている。しかしより重要なのは、この小説が『戦闘妖精・雪風』のテーマを更に深化させている点だろう。あそこで重層的に描かれた、「人間とは何か?」「機械とは何か?」「意思疎通とは何か?」との問いは、さらに筆を割かれて追求され、そのためにカウンセラーまで登場する念の入れようである。レムとは違い、神林の問いは直球勝負であり、人間や地球産の機械がJAMと相容れないのが仄めかされつつ、それでもなお真面目な考察や意思疎通の試みが繰り返され、それが人「と」人にフィードバックされる様は凄い。長くなっているのは専らこのためであり、読み応えは充分。
この夏初めて出会えた、「素晴らしい」と何のためらいもなく口に出せる作品である。
※読了は八月中です。