不壊の槍は折られましたが、何か?

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完璧な涙/神林長平

完璧な涙 (ハヤカワ文庫JA)

完璧な涙 (ハヤカワ文庫JA)

 世界史に数百年の空白があるという設定の作品。生まれつき感情を持たない少年・宥現(ひろみ)。もちろん社会には適応できない。そんな中、彼は砂漠の遺跡発掘現場で、旅賊の少女・魔姫に出会う。しかしそれも束の間、砂の中に埋もれていた自動戦車が目覚める。自動戦車は周辺の人間を皆殺しにした後、宥現を敵と認識し、次元を越えてストーキングしてくるのだった。
 感情のない少年、幻のように登場する少女、そして全くの機械が、切なくも冷たい関係性を織り成し、次元と時の狭間にたゆとうのが素晴らしい。一応、エピソードを四つ用意した連作短編の形態をとるが、事実上の長編と考えてよい。神林の特徴が端的に表された佳品であると思った。