不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

機械たちの時間/神林長平

機械たちの時間 (ハヤカワ文庫 JA (532))

機械たちの時間 (ハヤカワ文庫 JA (532))

 1976年、しがない経理屋(会計士?)として生きている主人公。しかし実は彼は遠未来の火星で生まれた、コンピューターを頭脳に埋め込んだハイブリッド兵士であり、謎の敵マグザットと戦っていたはずなのだ。戦闘で負傷したのか、過去の幻影を見せられているようなのだ。そんな折、2131年にいるという戦友から連絡が入る。そこから1976年の現実は割け崩れ始め……。
 珍しくハードボイルド・タッチで迫る作品。お得意の現実崩壊と機械知性というテーマは揺るぎなく、そこにちょっと切ない情感を盛り込むことにも変わりはない。しかしハードボイルドっぽい雰囲気を醸し出すことで、印象が結構異なってきており、興味深い限りだ。そして残念ながら、ゆえに完成度に悪影響が出ているような気がしないでもない。一人称による冷静な語り口は、神林の比較的情緒纏綿とした筆致には若干ミスマッチなのかもしれない。
 もちろんこうすることで、大人の男女関係が実にいい感じで描かれ、ラストもそれなりに納得できるものになっているので、一概に否定できないし、したくもない。水準を維持はしているし、だいいち異色作と言えるので、神林ファンならばチェックしても良いのではないか。