不壊の槍は折られましたが、何か?

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殺人の門/東野圭吾

殺人の門

殺人の門

 人を信じたい、でも信じられない。矛盾した態度とそれから来る相克が東野の本質的要素だと思うが、『殺人の門』もまた、その線に沿った極めて意地悪く不愉快な小説である。しかも今回は非常に重い。頭の悪い主人公の暗い半生を小学生時から描出することで、作者は〈殺意〉への間合いを少しずつ狭めてゆく。この「ジリジリ感」は相変わらず、非常に特徴的である。主要人物は全員とても酷い奴であり、同情・同調できないこと夥しい。しかしだからこそ、東野が垣間見せる「友情・愛への憧れ」が痛々しくも切実に迫ってくるのだ。

 とりあえず傑作だと思う。『白夜行』を越えるかは別問題だが、『ゲームの名は誘拐』『手紙』を無視するに足るレベルではある。ファンには当然お薦めできるし、特に嫌いじゃなければ読んでも構わないんじゃないでしょうか。