不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

今宵、銀河を杯にして/神林長平

今宵、銀河を杯にして  ハヤカワ文庫JA

今宵、銀河を杯にして ハヤカワ文庫JA

 惑星ドーピアでは、地球文明と異星生命体バシアン文明との戦争が延々数百年続いていた。宇宙空間で戦い続けるのは効率が悪いので、戦争は専ら惑星上で展開される。そこで戦う地球側の戦車、マヘル-シャラル-ハシ-バズは、長ったらしい名前のために司令部のコンピューターが混乱し、出撃回数が減るに違いないとの操縦士アムジ(名付け親)とミンゴの思惑を外れ、コンピューター群が色々勘違いした結果、最強の戦車ということになってしまい、燃料や部品の支給が最優先で回されるようになってしまい、もっとも出撃回数の多い戦車になってしまった。そんな戦車マヘルの新指揮官として、バシアンとの初コンタクトを夢見る自称天才・カレブ少尉がやって来る……。
 事実上の連作短編集。アムジ・ミンゴ・カレブの三人組が織り成す、奇妙な連帯と親睦が楽しい。そこに、微妙だが一応搭載されているマヘルの人工知能が絡む。そして惑星ドーピアには、アンドロイドが独自の都市とちょっとした政府(一応地球文明側だが)を打ち立て、昔のコンピューターが野生化していたりするのだ。ここに、神林お得意の機械知性を展開・発展させる、豊穣な土壌がある。バシアン文明や機械とのコミュニケーションとは、いやそもそも《意識》とは何か、といったテーマがじわじわと効いてくる様は、なかなか魅力的だ。
 軽く柔らかい『戦闘妖精・雪風』といった感なきにしも非ずだが、だからこそ出る味わいもある。これはこれで佳品だと思う。