不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

敵は海賊・海賊版/神林長平

敵は海賊・海賊版 (ハヤカワ文庫 JA 178)

敵は海賊・海賊版 (ハヤカワ文庫 JA 178)

 遠未来。宇宙では海賊が跋扈し、これに対抗するため強大な権限が認められた海賊課が「公認海賊」と陰口を叩かれつつも、海賊を狩っていた。
 そんな中、太陽系の海賊課には、一人と一匹と一艦のトリオがいた。刑事ラテルとアプロ、そしてフリゲートラジェンドラ。ラテルは普通の人間だが、アプロは見た目が大きな黒猫の、太陽系外から来た異星人。そして、ラジェンドラは高度知能付きであり、海賊課随一と言っても良い戦闘能力を誇る。このトリオが主に対決するのは、伝説の海賊であるヨウメイ(ヨウの漢字が出ないのでカナ表記)とその部下ジュビリー、そしてヨウメイが誇る太陽系最強の戦闘空母カーリー・ドゥルガー(これまた高度知能付き)である。
 以上の陣立てで、大騒動を巻き起こすのが本シリーズの基本形態だ。
 『敵は海賊海賊版』は、ジュビリーの故郷ランサス星系の王女が行方不明となり、女官シャルファフィン・シャルがヨウメイに助けを求めに来る。これだけなら普通のスペオペのようだが、平行世界が交錯し倒し、SFとして強い歯応えが出ている。時々SFを踏み越え、剣と魔法のファンタジー的な世界まで登場して、とにかく滅法楽しい。ただし本作において、ラテル・アプロ・ラジェンドラの個性はそれほど大爆発しない。キャラ立ちという面では、ヨウメイやジュビリー、そしてシャルファフィンの方が見事に造形されている。
 先述の《剣と魔法のファンタジー》が、物語のバランスを若干壊しているようにも思うが、とても凝った舞台設定であることは間違いない。他の次元の自分と共同で何かやったりするシーンとか、非常に面白い。笑劇の要素があるので親しみを誘いやすいし、広くお薦めしたい一冊。