不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

真珠郎/横溝正史

真珠郎―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

真珠郎―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

 扶桑社文庫で買ったので正確には「真珠郎」+その他四篇。

「真珠郎」
 戦前の横溝には珍しい(らしい)本格ミステリとして立派なもの。首のない死体がメインだが、これが結構うまく考え抜かれている。感心しました。金田一デビュー後の諸作に比べると筆が若いが、ここではその若さも含めて楽しめる。主人公の当事者意識の強さは『八つ墓村』以上なので、ここら辺も読みどころの一つかと。

「蜘蛛と百合」
 ただの因果譚。作品単体には何の興味も湧かない。ただし、戦後の横溝作品でも延々と繰り返される《因果》というテーマが、生の姿で示されていることは非常に参考になる。

「首吊船」
 人形、怪人、満州隅田川での捕り物……いかにも戦前臭い短編探偵小説。嫌いじゃないけれど。

「薔薇と鬱金香」
 因果譚でしかないその二。無茶な薬が出て来るのはご愛嬌として、珍しくそんなに陰惨ではなく、無邪気に楽しめた。コアなファンにとっては物足りないかもしれないが。

「焙烙の刑」
 回りくど過ぎる犯罪計画だが、まあその辺は目を瞑るべきなのだろう。犯人の狂気は印象的だし。

 なお、全五編ともに、由利がうざい。探偵役が邪魔でしかないのは昔からだったらしい。