不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

宇宙怪人/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第16巻 透明怪人 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第16巻 透明怪人 (光文社文庫)

 この『宇宙怪人』では、少年探偵団シリーズ中、もっともスケールの大きな仕掛けが施される。その分ミステリとしての軋みが酷く、いくら少年ものでもこれは無茶である。しかしながら、異星からの侵入者(それも数多い)というイメージは非常に目覚しい。敵キャラが全般的に知性生命体とは思えぬ行動をとるのは欠点だが、ここで示されたロマンとヴィジョンは(ラストの二十面相の演説も含め)作者が乱歩なだけに、色々と興味深い。

 惜しいのは、結局のところこれがミステリであり、日常に引き戻されて終わってしまう点だ。夕映え時にヘリコプターをからかう一群の宇宙怪人とかのヴィジョンは、トリックとして捨てるにはあまりにも惜しい。この大風呂敷を畳まずに、本当に宇宙から怪人がやってきたことにして、侵略SFとして少年探偵団と明智小五郎の活躍を描いたらどうなっていたのだろう。ものすごく面白い小説になっていたと思うのだがどうか。
 そもそも、乱歩がSFを書いたらどうなるのか、非常に見てみたい。戦前はミステリもホラーもファンタジーもSFもごっちゃであったはずで、ならば、その当時から執筆活動を続けている大家が、ミステリ作家であると同時にSF作家であってくれても良かった。

 「畸形の天女」は、合作の劈頭として、お得意のナチュラルな悪女を据えた作品。結構熱が入っていて楽しめる。思わず続きが読みたくなってしまった。
 「女妖」も同様の合作の劈頭だが、「畸形の天女」ほど力を込めておらず、普通に流している。とはいえ、猫の頭を潰したことを思い出すシーンは、なかなか引きがうまい。