不壊の槍は折られましたが、何か?

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ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎/A・バークリー

ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎 (晶文社ミステリ)

ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎 (晶文社ミステリ)

 タイトル通り、シェリンガム物の長編。

 『レイトン・コート』『ウィッチフォード』と比べても、本格に対する斜に構えた態度はより顕著である。ただし、結果としての達成度という意味では、最初の『レイトン』が一番上。先鋭化するコンセプトにミステリとしての実態が付いて行けていない。ひょっとしてデビュー後数年は、試行錯誤期だったのかもしれない。ああでもないこうでもないと悩むバークリーなんて想像しにくいけれど。ただし、作品自体は非常に面白く読める。これは保証したい。会話とかも楽しいし、人物描写の着眼点は(ユーモアで包まれているが)異常に鋭い。だいいち、ミステリ上の趣向も、これだけをとってみれば超ハイレベルである。そして全てがかけらも古びていないのである。つまり、他のバークリーの作品水準(特に『毒入り』以降)が高すぎるため、この作家における相対的な価値が下がっているだけなのである。

 バークリー・クラスの作家を語る時は、このような問題は必ず持ち上がる。とりあえず、『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』は、バークリーの中では「中」の出来と言っておこう。