不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

人面瘡/横溝正史

人面瘡 金田一耕助ファイル 6 (角川文庫―金田一耕助ファイル)

人面瘡 金田一耕助ファイル 6 (角川文庫―金田一耕助ファイル)

 『本陣殺人事件』(角川で読んだ)も正確には短編集だったが、気分的にはこっちが始めての横正短編集体験。
 お手頃感あふれる雰囲気のミステリ計五編。それはそれで楽しい。ただし、人が死なずとも十二分にミステリできることを知っている世代としては、どうしても殺人にまで発展させねば気がすまない傾向には、ちょっと抵抗がある。「蜃気楼島の情熱」「蝙蝠と蛞蝓」あたりがそれ。特に後者は、殺人を止める展開の方が締りが良い。前者も、殺人を招来して悲劇にしたかったんだろうけど……。横溝正史は惨劇は描けるけど悲劇は描けてないような。そこがまた、人気の秘密かもしれないが。惨劇と悲劇が結び付くのは、重過ぎてポップになれませんからな。なお、「蜃気楼島」については、トリックはなかなか面白かった。ただし某大家のパクリっぽ(以下略)

 他の作品は、私的にはちょうど良い湯加減。表題作はなかなか面白い。それ以上に、「湖泥」は岡山もののエッセンスな気がする。横溝正史のイメージそのもののような。気のせいかな。