不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

若竹七海:スクランブル

スクランブル (集英社文庫)

スクランブル (集英社文庫)

 登場人物の見分けが付かん、という点では古今東西一、二を争う作品。女子高生が大挙して登場するが、本当に、誰が誰やらさっぱりわからん。ガキばかりではなく教師の方も、全然見分けられない。
 ちょっと気が付いたのだが、二人の会話の時に、「うんたらかんたら」「なんたらかんたら」「あーだ」「こーだ」「でもそれは違うわ良子」というパターンが多すぎる。これでは相当な会話文を読んでからでないと、どっちが喋っているか判然としない。「発言者をだいぶ後から判別」させようというこの文章、私には相当読みにくい。おまけに、昨日書いたように、各人の口調や主張はどいつもこいつも似たり寄ったり。お嬢様、しっかり者、委員長、のほほんなどなど、色々なキャラ付けを試みているが、全部非常に曖昧。ていうか全く変わんねえよ。ずばり言えば、大失敗!
 しかし、そのほかの点はgoodかも。日常ミステリではあるものの、劈頭からぽーんと殺人を出すというのは、非常に珍しい。これ、なかなかうまいと思う。こうすることによって、「あんだけ日常日常言っておいて、結局殺人かよ」という嫌な「お前もか」を感じずに済む。様々な事件も、着眼点はなかなか鋭い。ここら辺は作者の勝ちだ。推理の論理的基盤は磐石か、となると強大な疑問符は付くが、まあそこら辺は気にすべきじゃないだろう。元来がそういうミステリを志向していない人だから。
 まあ、若竹七海の、現時点での最良の仕事だろうとは思う。それなりに名のある作家の代表作として、高く評価されて良い作品である。