不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

わが名はレッド/早川文庫

わが名はレッド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

わが名はレッド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 『Mr.クイン』のシェイマス・スミス、二作目。何気に日本先行発売だが、そんなことはどうでもいいくらい、傑作。
 レッドは論理だった悪党(クインとかぶっているのには目をつぶる前提)であり、物語を手繰る様はかっこいい。しかし、今回はこれに加えて、サイコキラーピカソがいい味を出し、前作との違いが「出来栄えだけ」になるのを防いでいる。被害者たるルシールは、恐らく意識的に普通の人っぽく描かれるため、我々にそんな強烈な印象は残さない。プロットの組み立て方は相変わらず見事。ていうかむしろこっちの方が出来は良い。デビュー作がまぐれである可能性を完全に否定している。福井健太が常ならぬ熱さで解説書いているのは伊達ではない。とにかく、一気に読めてしまう一作。
 ……でも、個人的な感想を言わせて貰えば、もうちょっとムダ口叩いてくれた方が良かった。薄いんだし、少しくらいページ増やしても問題なかったはず。
 ところで、ネット上で、「この小説、ずっと一人称なのに犯罪の動機に一向に触れないのはおかしい」という意見を見つけた。まあ色々な読み方はあっていいが、さすがにこの批判は的を得ていないと思う。それこそこの小説の構成上の要であり読み所じゃないっすか。延々と細かな犯罪準備を積み重ね、それが後半俄然「像」を結んでくる様こそ、『Mr.クイン』にも共通する、シェイマス・スミスの得意技なのだから。
 なお、仕方がないとは言え、裏表紙のあらすじ解説、あれはちょっと微妙。読まないほうがいい? 『太陽黒点』みたいに致命的なのじゃないけど。