不壊の槍は折られましたが、何か?

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家蝿とカナリア/ヘレン・マクロイ

家蝿とカナリア (創元推理文庫)

家蝿とカナリア (創元推理文庫)

 非常に端正な本格だと思う。題名が話の鍵そのまんまなんて趣向も、非常にポイント高い(ただし、後者は因果関係ちと微妙ですが)。
 しかしながら、この作品の一番の見所は、演劇界に渦巻く人間関係の描写そのものにある。マクロイはやはり心理描写とか雰囲気描写とかが無茶苦茶うまい。それも、ダラダラと文章続けず、表現意欲の強度とその実現度の間に、適度な余裕は残しつつも、全頁400くらいで収めている。
 だがしかし。無茶を承知で言うが、マクロイの本領は、もうちょっとガジェットの縛りがゆるい作品で発揮されるのだと思う。この点から見れば、『ひとりで歩く女』とか『読後焼却のこと』とかの方が、代表作にふさわしいと思うのだ。『家蝿とカナリア』、傑作ではあるが、必ずしも最良たらず。論理性が薄いのも、このタイプの本格では今やマイナスかと思う。