不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

血まみれの鷲/クレイグ・ラッセル

血まみれの鷲 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

血まみれの鷲 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 ドイツのハンブルクで、娼婦の惨殺体が発見される。そして“シュフェンの息子”を名乗る人物から、捜査チーム首班のファーベル警視宛てに挑戦状が届けられ、ここにハンブルク州警察と連続殺人犯の息詰まる戦いが切って落とされるのだった。
 シリアル・キラーに翻弄される捜査陣とハンブルクの町を、シリアスかつ重厚に描いてゆく。拡大した捜査線と、刑事たちの人間ドラマを心行くまで堪能できる一冊。これ見よがしのミステリ的ケレンこそないが、犯行の狂気をしっかり描き込み、その裏事情もスケール豊かに非常にがっちりと固めている。ストーリー上でも色々起きるので、読者を飽きさせない。完成度の高い上出来の警察小説+サイコ・サスペンスとして、お薦めできる作品だ。
 しかし、問題は、これではまるで正気のマイケル・スレイド、という点だ。作者に帰責事由は全くないものの、スレイディストが物足りなく感じる可能性は高い。スレイディストではない私ですらそう思ったのだから。しかし、スレイドを評価しない層には、かえって好評かもしれない。現時点では、世評がどうなるかちょっと見当が付かない感じ。