不壊の槍は折られましたが、何か?

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アルトゥーロ・トスカニーニ/NBC交響楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1953年2月9日、カーネギーホールでの録音。
 1947年盤ほどではないが、こちらもなかなかに強烈な演奏である。オーケストラが一丸となって漲り滾っている感が凄い。そして嬉しいことに、こちらの演奏は録音がトスカニーニの録音史上トップレベルに良くて、音場感がクリアに伝わって来る。トスカニーニの《グレイト》としては第一にオススメするってことになるのだろう。
 ただし、解釈自体が1947年盤とは結構異なっている。最大の相違点は旋律線を取り扱う息の長さだ。1947年にはフレージングの切れ味が鋭く、というか鋭過ぎてメロディーの抒情が蹴散らされていたのだが、1953年盤はより常識的な線に戻っており、初めて聴いた時にギョッとする度合いは弱くなっている。手触りにたとえると、1947年がカッチカチだったとすれば、1953年はコリッとしている程度になった。また楽団員に対しても若干手綱を緩めており、彼らはこころもち自由に演奏している。木管のソロも気持ちよさそうだ。これらの結果、メロディーの流れはかなり自然になっている。
 これは解釈が変更されたということなのかも知れないし、ひょっとするとオーケストラを掌握する能力が加齢で低下したってだけかも知れない。録音当時85歳だからなあ。だが他の演奏に比べればまだまだ強烈で、ハイテンションだ。そしてこれがたとえ衰えだとしても、代わりにより自然でスムーズな流れを手にしているのも間違いない。1947年と1953年、どちらも素晴らしい演奏であり、それぞれにまた違った魅力があるということである。