不壊の槍は折られましたが、何か?

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レナード・バーンスタイン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1987年10月、コンセルトヘボウでのライブ録音。
 解釈の基本はニューヨーク・フィルとの旧盤とそう変わりがない。すなわち快活でよく歌い、よく鳴る。聴いていると元気になる一方、憂いの表情が無視されているわけではない。表情付けは全くしつこくない(この時期のバーンスタインでこれは珍しい!)けれど、寂しそうな表現はちゃんと為されているのが嬉しい。印象的なのは、新盤の方がより美しい演奏になっていることである。ニューヨーク盤は、勢いに身を任せるところ無きにしも非ずで、その結果、音楽が荒々しくなっている場面もあった(それはそれで魅力になっていた)が、この新盤は細部がより丁寧に練られている。よってどんな場面でも美しい。前へ前とくいくい進んでいくスマートな流れの中にも、注意深いバランス調整や丹念なハーモニー形成があって、好感度は非常に高い。バーンスタインの音楽は間違いなく深化しているのである。反面、ニューヨークに比べてテンションは若干低くなっており、勢いや力感もやや弱い。ただし音楽する喜び、これは全く負けていない印象である。みんな楽しそうに弾いているんだよなあ……。
 オーケストラの性格ゆえだろうけれど、響きが高貴なのも特徴だ。これが爽やかな印象を一層強めている。バーンスタインも、主導権を握るのではなく、一緒に爽快に音楽することを最優先している気配がある。よく聞くと細かい拘りはそこここに見て取れるのだが、全体の中ではあまり目立っていない。この録音を聴いて、指揮者が強引だと思う人はまずいないだろう。バーンスタインの晩年によく見られた粘り気もここではほとんど感じられない。少なくともこの曲に関して、バーンスタインは最後まで青年のように若々しかったということなのだろうか。
 ドイツ・グラモフォンによる録音も素晴らしい。各パートの動きをクリアに伝えつつ、響き全体の美しさもしっかり聴かせてくれる。これはなかなかいい音盤ですよ。