不壊の槍は折られましたが、何か?

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ピエール・モントゥー/ボストン交響楽団 シューベルト:交響曲第8(9)番ハ長調《グレイト》

Grands Interpretes

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 1956年9月9日、モスクワでのライブ録音。つまりアメリカを代表するオーケストラの一つ、ボストン交響楽団ソ連訪問中の演奏である。会場は恐らくはモスクワ音楽院。この時期のソ連訪問がどのような意味を持ち、演奏者がどのような心持ちでそれに臨んだか、想像に難くはないが如何せんどこまで行っても想像なので、そういう側面は無視して感想をしたためることにします。なお現在のところ、モントゥーのこの曲の録音は、これが唯一らしい。録音状態が万全と言えないのは残念だが、まあしょうがないです。
 リピートはおこなっておらず、テンポも速め。スケルツォなどは9分20秒弱で終わってしまう。実に活き活きした演奏で、テンポやリズムをかなり頻繁に変化(ただし極端な変化ではない)させて、目まぐるしく表情付けを変えるモントゥーの芸風が遺憾なく発揮されている。「流す」場面はほぼ皆無で、どの楽章のどの場面でも何らかの濃い目の味付けが施されているのだ。第一楽章のコーダなどはフルトヴェングラー張りの加速を見せた上で、序奏主題回帰もそのまま突っ走るなど、パッショネートなところも見せる。この部分に限らず、全体的に熱気が強いのも特徴だと思う。聴き手は高エネルギー反応を随所で感知することができるはずだ。
 モチーフの繰り返しこそこの交響曲の本質、と思っている人にとって、モントゥーの頻繁なテンポ操作・リズム操作は果たしてどうなのか、とも思うが、フルトヴェングラーの真剣深刻なドラマ作りとはまた違った、活き活きした演奏にしたいがゆえの加減速多用は、他にあまり例がないこともあって非常に面白い。ボストン交響楽団も上手く、モントゥーの指示にしっかり対応している。出しているサウンドも非常に力強い。演奏終了時の拍手が結構凄いのは、やっぱりエキサイティングな演奏だったということなんでしょう。
 カップリングは、ニューヨーク・フィルを振った1944年11月5日ライブのドビュッシー:祭り(夜想曲より)である。何の脈略もないカップリングではあるが、こちらも活き活きしていて楽しい演奏だ。音はちょっと古いですがまあしゃあない。シューベルト同様、ドビュッシーでもテンポやリズムをちょこまか変えていて、本当に細かい操作が好きな指揮者だったんだなと痛感いたしました。