不壊の槍は折られましたが、何か?

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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団 シューベルト:交響曲第8番ハ長調《グレイト》

 1969年3月27日、ミュンヘンレジデンツヘラクレスザールでのライブ録音。放送用の音源のはずで、クーベリックの生前には発売されていない。恐らく演奏会の一発録りであろう。幸いなことにステレオ録音である。auditeレーベルから発売されたもので、恐らくはライブ一発録り、要は過去のライブ音源の掘り起しである。もちろん、クーベリック生前は発売が予定されていなかったし、そもそも音盤として聴かれる前提での演奏ですらない。しかし音は大変良い。
 クーベリックは後年、バイエルン放送交響楽団の団員から「技術的に難はあったが素晴らしい指揮者だった」と言われてしまっている。要は棒が下手だったのだろう。あるいは混み入った曲でうまく交通整理ができなかったとか。しかしこの《グレイト》では、そんなことは微塵も感じさせない。テンポは若干早目。リズムをそこまではっきり刻まず、デフォルメもせず、テンションだけで押しまくるような単調さも見られず、さりとて職人然とした細かいブロックの積み上げも行わない。しかし、どの局面でも音楽はしっかり前進している。印象的なのは、木管群の寂しげな表情付けである。ソロでのニュアンスの豊かさは、この演奏の価値を何倍にも高めているのではないか。第二楽章の後半で(珍しく)ぐっとテンポを落として木管からメロディーが漂い出て来るところなど、筆舌に尽くしがたい素晴らしさである。あからさまに変な箇所があるわけでもなく、指揮者に起因すると思われるアンサンブルの瑕疵もなく、《手堅い》解釈をベースとして、ストレートにまとめられている。私個人としては、これも規範的演奏だと考える次第だ。それにしても、バイエルン放送交響楽団のクオリティの高さにはため息が出る。ハーモニーがまとまっているんですよねえ。
 カップリングの交響曲第3番は、だいぶ時間が経っての1977年2月24日のライブとなる。こちらはなぜか《グレイト》よりも音質が劣るように思われる。ちょっと音の芯がなくて響き過ぎなんですよね。特に弦。演奏も《グレイト》より重くなっており、そのせいで小回りがきかなくなっている場面も散見されます。正直申し上げて第一楽章は全く感心しなかった。漂うようなメロディーを扱いかねているし、主旋律と伴奏のかみ合わせもいまひとつ。第二楽章からフィナーレにかけてはマシになってますが、やっぱ悪い意味で重いのは変わらない。