不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1707回定期演奏会

15時〜 NHKホール

  1. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調op.30
  2. (アンコール)グリーグ:抒情小曲集第5集op.54-2《ノルウェーの農民行進曲》
  3. チャイコフスキー交響曲第5番ホ短調op.64

 前半のラフマニノフは、曲はどうしようもなくロマンティックでドラマティック、あざといぐらい技巧的と、色々な意味で派手でケレンたっぷりなんですが、演奏者側はピアニストも指揮者もケレンとは無縁な人なので、そのミスマッチ感がとても面白かったです。ヴィルトゥオーゾならこれ見よがしにカッコよく弾く所も、アンスネスはすとすとさくさく進み、透明な音色で楽曲をすっきり爽快にまとめ上げていく。新鮮で良かったです。問題はオケが若干鈍かったこと。ブロムシュテットが身体全体を大きく揺らした時には結構いいサウンド出してましたが、基本的にドスドス音を出していて、流れるように音楽を紡ぐピアニストとは悪い意味でミスマッチでした。もちろんしっかり弾けてはいたんですが……。ソロ・アンコールのグリーグはさすがにお手の物の出来栄え。抒情小曲集だけで組んだプログラムをリサイタルで弾いてくれないかなあ。モンポウでもいいけど。
 後半のチャイコフスキーは、先日のドヴォルザークと同じく、純音楽的で新鮮なアプローチ。まっさらな目で楽譜を読んで演奏したらこうなりました、という感じの演奏で、いわゆる「チャイコフスキーのメランコリー」辺りは綺麗に吹き飛ばされており、無国籍風味の音楽作りは結構高貴な雰囲気をまとっていました。ドヴォルザークでは第三楽章とフィナーレをブルックナーっぽいと感じましたが、チャイコフスキーでは逆に第一楽章と第二楽章でブルックナーっぽい響きが頻出。弦楽器の絶妙なブレンド具合もそうだけれど、特に木管の活かし方が完全にブルックナーのそれ。ポエマー(笑)的な表現をお許しいただければ、大自然の中の鳥の囀りって感じでござった。なお第三楽章とフィナーレでぶるっくなーを感じなかったのは、演奏様式が変わったわけじゃなく、単純に楽曲の特徴上どうあがいてもブルックナーにならないからだと思います。第三楽章なんかワルツだものねえ。フィナーレは一応勝利の凱歌だし。NHK交響楽団は、後半は持ち味をプラスに転向させて、いいプレーを披露していたように思います。多少の瑕はありましたが、まあこれは実演だし、気にならないレベルだったのでOK。今日もよく鳴ってました。
 ……これで、チャイコフスキーのフィナーレ、例のパウゼで起きたあの拍手さえなければなあ。楽章どころか曲の真っ最中だからなあ。フライングなんて生易しいもんじゃない。知らない曲なのに、どうして真っ先に拍手始めようとするかね。和声進行上あの箇所で終わるのは明らかに変なのにそれすらわかってないわけで、どうしようもない人間が紛れ込んでいたようです。演奏が素晴らしかっただけに残念。ただし演奏者は拍手にもめげず、その後のコーダでもテンションを維持しておりました。さすがプロ。