不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

幽霊島の戦士―グイン・サーガ外伝10/栗本薫

 色事師ユリウスによってさらわれたシルヴィアを救うため、グインは軍務を放棄し一人アルセイスを旅立った。そしてその途中、森で出会った雌の大鴉ザザは、グインのことを「王」と呼び、ある奇禍が彼らを襲っているとして助けを求めて来る。それは、あの死の都ゾルーティアが《浮き島》となって、ザザらの住む《黄昏の国》を荒らしているというものだった。おまけに彼女は、ユリウスもゾルーティアにいるらしいと言う。グインはザザと共に再びゾルーティアに入る……。
 喋る鴉、生きている剣、亡霊、蠢くミイラ、疑似生命の化け物、相変わらず妖しい《死の娘》タニアなど、ファンタジー要素が極めて強い。これはサーガ本編ではあまり強調されない要素であり、作者が本編と外伝でその性質を異にしたかったことは明白である。さて肝心の内容だが、ストーリーも雰囲気もうまく描けている。この街の話はもうしたではないか、と思う部分もあるのだが、今回は登場人物に人外しかいないので、また別の雰囲気が出せており「焼き直し」批判を回避できている。本編ではこの頃、ゴーラでの権謀術数を延々と締りなく描いているのだが、この外伝『幽霊島の戦士』はなかなかの出来栄え。明らかにつまらんと思う人は少数派だろう。
 ところで、ザザは(今のところ)いいキャラですね。