不壊の槍は折られましたが、何か?

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鬼面の塔―グイン・サーガ外伝13/栗本薫

鬼面の塔―グイン・サーガ外伝(13) (ハヤカワ文庫JA)

鬼面の塔―グイン・サーガ外伝(13) (ハヤカワ文庫JA)

 ホータンにある《さかさまの塔》からマリウスを救出したグインは、彼を青鱶団のアジトに保護した後、今度こそシルヴィアが閉じ込められているらしい《鬼面の塔》を目指す。だが途中で、魔道師グラチウスが仕掛けた数々の罠がグインを襲う!
 小説として一番読み応えがあるのは第一話、マリウスが青鱶団の面々に歌を聞かせる段かな。少年少女を涙ぐませ、暴力以外の手段でも《闘う》ことができるとグインが(またぞろではあるが)説く。これは普通にいい場面。淫魔ユリウスに色々されたのがトラウマになっているっぽいのは、ここまで読んだら流石に色々諦めが付いて来ました。うん、そういう作家・作品なんですよ。一方、鬼面の塔のおぞましい外観やグラチウスが見せる幻影の数々もなかなか面白い。見世物以上のものではありませんが……。宝玉の精が見せるグインへの狂おしい思慕と、微妙に不幸フラグが成立したかに見えたのもなかなか面白い。
 サーガ的には、ヤンダル・ゾックおよびグインに関して、グラチウスがかなり詳しく自分の考えを述べるのは結構重要か。ランドックへの鍵となるらしい宝玉絡みのエピソードは、一つの伏線として記憶する必要がありそうです。ラストは、グインが決然と鬼面の塔に足を踏み入れるところで終わり。続きは次巻でということらしい。堺三保さんによる解説で、いよいよグインも後半か、みたいなことが書かれていて色々と哀しくなった。現在出ているものだけでも外伝13ではまだ半分に到達していない*1し、そしてもう決して「どこからが本来の後半であったか」はわからなくなってしまったのだから。

*1:本編130巻+外伝21巻(ただし1巻は上下巻)。刊行順に並べた場合、外伝15巻が折り返し点となります。