不壊の槍は折られましたが、何か?

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夢魔の四つの扉―グイン・サーガ外伝14/栗本薫

 シルヴィア救出のため、グインは、それ自体が物神である《鬼面の塔》に突入する。塔内部の四つの階層のそれぞれは不思議な異空間となっており、グインは様々な怪物たちと出会う……。
 本書の中、第三層で出て来る「わしはク・スルフというものじゃよ」は本当に衝撃的な台詞である。栗本薫にかかるとかの邪神もこうなってしまうのか……。矮小化著しいグラチウスと口調が大して変わらなうえに、情けなくも体面を気にしている「ク・スルフ」を見ていると、無性に悲しくなってくる。なおこの第三層では、何故グインが《鬼面の塔》に勝ったことになったのかよくわからなかったことを告白しておきたい。
 とはいえ通してだと悪くない巻だ。あやかしたちとグインによる、いかにもファンタジーという感じの戦闘がいっぱいで、難しいことを言わずとも素直に楽しめる。ザザとウーラがピンチに駆け付ける半ばテンプレのような展開も、結構決まってます。バトル自体は、追い詰められた《鬼面の塔》が助けを呼ぶところで終わり。決着は外伝15巻に持ち越された。グイン本伝で目立つ、若い成人男性を対象とする無闇な美辞麗句、やおいとしか判断しようのない美化された男性同士の関係を忘れておけるのもまことに結構なことだ。
 グインの素性は、各層で出会う怪物たちから今回も散々仄めかされる(特に「ク・スルフ」は多分全部わかってる)が、相変わらず核心には触れられない。この点について、リアルタイムで読んだ人は「まあ本編じゃなくて外伝だし……」ということで流したかも知れないが、私はその本編が未完に終わったことを知った上で読んでおり、色々割り切れない思いが生じるのは仕方のないところか。