不壊の槍は折られましたが、何か?

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氷雪の女王―グイン・サーガ外伝4/栗本薫

 北の賢者ロカンドロスを求めて旅するグインと、帯同者のイシュトヴァン、マリウスは、女だらけの恐るべき村を通過した後、小人の老人モルフキンに出会う。モルフキンは、かつて盗まれた一族の財宝を、地下の国ヨツンヘイムの女王から取り戻して欲しいというのだが……。
 上述の「女だらけの恐るべき村」の部分と、ヨツンヘイム云々は事実上別のエピソードである。ただしいずれも北欧神話をベースとしたものとなっており、そこに氷の中の美しい女王が支配する国というオリジナル設定を混ぜている。そういや「財宝を守る竜」の他に、ケルベロスっぽいのもいたのでここら辺も作者のアレンジであろう。なお刊行時点(本編は16巻まで進行)では、既に本編でマリウスの立場が明らかにされているため、『イリスの石』とは打って変わって、彼の正体や出奔経緯を匂わす描写が大幅に増えている。
 怪物や魔法があからさまに登場するエピソードは外伝に任せる、という方針が顕在化した作品といえるだろう。北欧神話が元ネタの各種ガジェットは話に綺麗に溶け込んでおり、栗本薫の才気を感じさせる。特に小人の処理には感心しました。うんこれは確かに北欧神話だ。他に面白かったのは、ヨツンヘイム到着後の各人の語らいである。話題がグインの場合は自分探し、イシュトは立身出世、マリウスは権力や暴力からの逃避になって、三者三様の個性を明らかにするのである。
 正直、既存のガジェットを継ぎ接ぎしただけという見方もできる。しかし全体の完成度は非常に高い。本編から見れば、イシュトヴァーンが財産をゲットしたという点で重要なエピソードでもあり、グイン・ファンにはすすめるスタンスを維持したい。